案内してくださったのは、なんとネルディンガー名誉教授。現在はミュンヘン工科大学を定年退職され、三年の任期を残し、NSドキュメンテーション・センターの館長を務めていらっしゃる。
朝、まず先月まで勤務していた事務所の改修工事を遠藤教授とともに見学、自分の描いたディテールがどのように施行されているか、確認するとともに、この物件はエネルギー改善が主な目的の改修工事であったので、この点について、遠藤先生へ説明をした。
その後、11時からケーニヒスプラッツへ行き、ボク教授とNSドキュメンテーション・センターの建物前で待ち合わせする。
ここで手短にこの建物についての説明を。詳細については、施設のHPにものっているので概要だけかいつまんで記述する。
NSドキュメンテーション・センター
http://www.ns-dokumentationszentrum-muenchen.de/zentrum
NSドキュメンテーション・センターは、ナチスの主要施設が集中していたケーニヒスプラッツのすぐそばにあり、施設の立地しているその場所には、かつてナチスの中央本部、ブラウン・ハウスが立っていた。その場所に、コンペで選ばれたベルリンの設計事務所Georg Scheel Wetzelの建物が建っている。
建物は、概ね内外とも完成している。
建物の特徴はなんといっても、その素晴らしい白いコンクリート内放しの壁にある。この壁は二重構造になっていて、開口部に立つ柱状のコンクリートはプレファブ、それ以外はなんと現場打ちコンクリート。白い色は塗装かと思ったが、なんと液状コンクリートに色素を混入して練り上げているそうだ。そのため、色の途中での変化を避けるために一層分は一気に温度調節をしながら打ち上げたそうだ。内部のコンクリート構造部は躯体暖房しており、そのため、外側表面のコンクリート層とは熱的には分断し、力学的には結合するという点が技術的にも難しかったそうだ。
この外側と内側コンクリートシェルの間に断熱層が存在する。
内部も、もちろん凝りに凝っている。床は二重構造で、ここにほぼ全ての配管設備が納められている。天井にはもちろん照明やスプリンクラー設備が取り付けられるが、それらは天井部分で配管されるのではなく、上部の二重床からコンクリート床を貫通し、天井に取り付けられたパネルに集約される。下から見上げるコンクリートの天井は、もちろん躯体暖房。
建物のシルエットはボックス型だが、プレファブの柱が並列した大きな開口部がこの建物の表情となっている。この開口部は歴史的に重要な周辺建物に向けられているため、それが既に展示の一部として借景されているが、と同時に内部では二層分の吹き抜けとなっており、隣接する一層分の展示室とともに変化のある一つの展示空間となっている。
見学者は、まず、エントランスから上層部へエレベータで上がり、そこから螺旋状に下階に降りてくることになるそうだが、今回はエレベータを使っての移動となったために、その動線を確認することはできなかった。
最上階は、会議室や来賓室、そして館長などの事務室となっているが、今回、特別に見学させていただいた。ケーニヒスプラッツ側から見下ろす広場は息を呑む素晴らしさ。エーレンテンプルの基壇を上部から見下ろすことができたのも良かった。
遠藤教授、下を覗き込むボク教授、ネルディンガー名誉教授
会議室からケーニヒスプラッツを見る。
肖像権については、名もないブログなので大丈夫、だと思う。
ちなみに、かつての音楽学校の入っていた、かつての総統の館は、現在音楽学校が入っていない、という話しであったが、どうなのだろうか。しかし、面白かったのは、この新しい建物から見る旧総統の館は、その背後ということになるが、空襲の傷跡もあらわであった。通り側は修繕されたが、背後の傷跡はそのまま残されている。また、遠藤先生のご指摘で初めて気づいたが、通り側のナチスや鷲のエンブレムが取り付けてあった穴を、建物上部に確認することができる。
地下にはカフェと資料室兼ライブラリがあり、展示内容についておさらいできるようになる。また、ホールも計画されており、これらを含めると、地上部分を約倍にした総体積となる。
とにかくびっくりしたのが、そのコンクリートのクオリティーの高さ。ネルディンガー名誉教授もおっしゃっていたが、これ以上の質のコンクリートは、ドイツではお目にかかることができない、とのこと。遠藤教授も、ドイツ建築もやればれきるではないか、と感心しきりのご様子でした。
総工費は23ミリオンユーロ。とにかく、素晴らしい建物だったので、オープンするのが非常に楽しみである。
その後、私が新しく勤務している事務所の現場を見学。所長のフォルカーが熱く英語で説明してくれたので、とても興味ぶかく、また事務所の傾向も良く理解できる物件であった。
遠藤教授には、日本からのお土産を頂き、とても感謝しております。特に協会認定という剣玉をなんと教則本とともに息子と自分にプレゼントしていただき、玉が皿にすっぽりはまる感触は、協会認定だと随分違うんだなぁ、と感動。生涯初めてとめけんにも成功し、はまっております。