2015年11月12日木曜日

名医とは、こういう人のことをいうのだろう

ミュンヘンはいい天気。

ところで、ここ数年喉の痛みがあり、且つ、そのおかげで、歯磨きの時など嘔吐しそうになる。幾つかの耳鼻咽喉科を訪れたが、なんだかぱっとした診察をしてくださる医師に出会うことが出来ずにいた。結局何が原因なのか、明確な説明を誰もしてくれない。まったく問題ありませんね、とも言ってくれない。おかげで、もしかしたらやっかいな病気なのではないかと少々不安になってもいた。

先日、事務所の近くということで、耳鼻咽喉科のDr. Jolkの門を叩いた。白髪の、ちょっとやせ気味の医師。診療所には多くの絵が飾られ、美術愛好家であることが伺える。
まず、最初の診療にて、先生は、自分がアレルギー体質であることから鼻が詰まり、それで口呼吸するので、乾燥した空気により喉が腫れるのではないか、という仮説を立てた。そのことを、理路整然と、ゆっくりと、外人である自分にも100パーセント理解できる口調で説明してくれた。とりあえず、その日は、喉の奥に例の茶色いドロドロした、妙な味の液体薬をつけてくれた。
「自分はみそ汁は飲んだ事はないけれど、きっとこの薬はみそ汁の味のように苦いだろうね。」
そういって、一人で押しつぶすような笑い声をたてた。

二回目の診療では、腕に17種類のアレルゲンを付けて、どの物質に対してアレルギーを持っているかのテスト。そして数種類のものにアレルギー反応があった。その際には血液を採取し、そのアレルギーがどの程度の強さを持ているのかを調べてもらった。

その結果が出た三回目の診察。何に対してどの程度のアレルギー体質なのかが明らかになった。処方してもらった薬によって、喉の痛みもすっかり消えていた。その結果、鼻がつまり、喉が腫れていたのだということが、やっと明らかになった。
「さて、そうしたら、どのように直せばいいのか。」と先生は一呼吸ついて言う。
Hyposensibilisierungという治療法をお薦めするよ。
「先生、そのHypoなんちゃらというのは何ですか?」
先生の説明によると、HyperとHypoというのは対語であり、Hyperというのは過剰でるものをさし、Hypoとは抑制するものを指すのだそうだ。つまり、Hyposensibilisierungというのは、アレルゲンを定期的に皮膚の下に注入し、そのことによって、アレルギー反応を抑制するものであるのだそうだ。
「これが、驚くべき事に効くんだよ」
そういて、また押し殺したように笑うDr. Jolk。
「この場で決断しなくてもいいから、この治療をするかどうかしばらく考えてみてください、また何か問題があったら、私のところに来なさい、私はこの診療所にいつもいるのだから」

何とも力強い言葉である。迷いのない、明晰な診断、そして患者を支え、不安を払拭し、安心感を与える言葉の数々。名医というのは、こういう人のことをいうのだろう。


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