2013年4月19日金曜日

吉田五十八 岸信介自邸

この住宅、元日本国首相、岸信介自邸を訪問して、建築以外の点で驚いたことが幾つもある。
まず、御殿場にあることにそもそも驚いた、というのは、自分の母校御殿場南高等学校に非常に近いからだ。岸元首相は、別荘としてではなく、この住宅に住み、毎日東京へ東名で通うという生活をしていたらしい。一体、どんな生活スタイルなんだよ、それは。そんなことができるなんて考えたこともなかった。
そして、岸元首相の親族関係。松岡洋右や吉田茂は親戚、佐藤栄作は兄弟、現在首相、安倍晋三も親族である。

一方、建築家の吉田五十八。大田胃散の創業者の息子で、創業者58歳のときに生まれたので、いそやと名づけられる。
そう、この住宅は、いわゆる坊ちゃんたちの花の饗宴なのだ。これらのことが、ある種の驚愕として自分の目には映った。


現在は、入館料300円で、通常は一階のみ見学可、写真は壁面に飾られている絵画などを除けばほとんど撮影可。

設計者は、首相を退任していたとはいえ政治家の家なので、いつ政治的交渉の場となるかわからず、そのことを念頭において、エントランスから居間スペースまでの公の場の構成を考えたという。

この住宅の特色は、部屋毎の個性が明瞭なこと、そしてこのことから生じる、シークエンスの多様性にある。加えて、このシークエンスは、パブリックとプライベートという二つのグループに明快に分節されている。
一方、個々の部屋に着目すると、構成要素が減らされ、非常にすっきりした印象を与えている。いわば、パブリックとプライベートを織り成す二つのぶどうの房が家で、敷地の真ん中にどん、と置かれ、玄関のあるアクセス空間と静寂につつまれた庭空間を明瞭に分断している。個々のぶどうの粒は庭との関係性によって形作られている。

パブリック空間を織り成す個々のぶどうの粒について見ていこう。
茶室のデザインでは、特に鴨居周辺に意匠の工夫が集中している。


庭に面する居間と食堂は、庭まえのタタキ空間との高低差が少ないので庭と連続しており、たたきが一種のテラス空間となるため、居間に滞在している間、非常に安定した印象を与えた。

 
天井の横木などの荒々しさが妙に癪に障ったが、これが庭や壁の繊細さと対応してコントラストを生み出しているような気もしないではない。

それにしても押し込み窓の掃きだしレールの厚さにはたまげる。スチール製なので脆弱感を与える。でも破損していないので、強度はあるのだろう。


居間にある、庭に面した一人がけのソファー、そして食堂の窓を全開すると現れる開口部に縁取られた庭の景色に、この住宅の創意が結晶化しているのを感じた。

 
 
自分の母は建築とは関わりのない一般人なので、岸邸?なんの変哲もないただの住宅よ、とおっしゃった。ここでガイドをしていたボランティアのおじいさんも、最初にこの住宅を見たときには、何が特別なのか、わからなかったという。個人的には、実家に帰ったときには、毎回ここに来ようと思わせてくれる、クオリティーの高さに感銘を覚え、そういった視点で見学することができる建築家という職能についたことに喜びを覚えた。

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