2012年12月19日水曜日

ビッグプロジェクトの挫折 ハンブルグ・シュツトガルト・ベルリン

南ドイツ新聞より抜粋 
「世界中で笑われている」

引き続き、ミュンヘン、持続可能都市への挑戦を翻訳していきたいと考えているが、今日は南ドイツ新聞で興味深い記事を見つけたので、そのことについて書いていきたい。

みなさんもご存知の、ハンブルグに建設中のヘルツォーグ&ド・ムーロンのエルベ・フィルハーモニー、フライ・オットーとインゲンフォーファーの新駅計画、シュツットガルト21、そしてベルリンの空港改築計画。個々の計画についての背景を、実務と論文執筆に追われていたために把握していないが、翻訳・コメントしていきたい。

記事は、ドイツにおけるビックプロジェクトのコストが跳ね上がり、それに比べてロンドンオリンピック計画のコストが積算段階よりも低かったため、これを見本として今後の入札方法を変えていくべきだ、という主旨である。

http://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/baustelle-xxl-bauverband-fordert-radikalen-systemwechsel-fuer-grossprojekte-1.1552457

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これらビッグプロジェクトは、コストが明確になるに従って跳ね上がり、大問題となっている。ハンブルグ、エルベフィルハーモニーは、7700万ユーロの予算が5.75億ユーロと7倍近く跳ね上がり、ベルリン空港では25億ユーロが40億ユーロ、シュツットガルト21では49億マルクが60億ユーロ。
市民は、税金を使ったこれらのプロジェクトのコストと建設期限が守られていないことから、抗議行動を起すに至った。一方で建設関係者は、システムの変更と、法律の変更が必要なのではないか、と考えている。ドイツ建設協会の会長ミヒャエル・クニッパー氏は、「世界中が私たちのことを笑っている」と警告する。

彼によると、ドイツの70のビッグプロジェクト、総計すると480億ユーロもの計画がストップされた。何故なら、不透明で、市民をなおざりにした計画のためだ。問題は、公共による建設進行システムの中にある。行政は、終わりなき議論が発生することを恐れて、コストを正確にはじき出すことをためらう傾向がある。

一般的なプロセスは、こうだ。まず、大臣が、大プロジェクトを提案する。そして完成日時が決定され、役人は大まかな契約書を作成する。それに基づき入札が行われ、一番安く入札した業者が落札する。この時点では、様々なことが明確には決定していない。例えば、トンネルはどのように作られるのか、コンクリートの厚さ、などなど。そして建設会社は、追加分を計上する。もし、このような業者のやり口が当初からわかっていたのなら、政治家は計画進行にストップをかけるだろう、例えば、ベルリン空港計画のように。もしくは、受注者と、コストに関しての争いが生じるだろう、例えば、シュツットガルトのように。
だが、多くの建設関係者にとって、最終的に追加コストが発生するのはわかりきっていることであるし、それを期待してもいる。そして、ここに問題がある。

このようにして起こったシュツットガルト21の計画ストップはビッグプロジェクト全般に悪い印象を与えた。その結果、次々とプロジェクトがストップする現象が起きている。
建設協会はこの現象に危惧を感じ、対策が必要であると考えている。計画は、市民、企業、行政が一体となって遂行されなければならない。その前提として、公共建築では入札制度などの、プロセスの透明化が求められる。

そのモデルとして、ロンドンのオリンピック計画が挙げられる。2012年、ロンドンでのオリンピックが開催される前に、オリンピック委員会は、非常に詳細な計画書を作成した。それは14000項目にも及ぶ。
77億円が予算として計上された。これらは、関係諸者とのやりとりを経て、月々新に計算され直された。そして、その詳細は全て、インターネット上で公開されている。その結果、ロンドン市民の10人に9人が、プロジェクトに理解を示した。そして計画は期限通りに建設され、なおかつ、計算よりも数千万ユーロの出費が抑えられた。

このように、計画を進めるべきだ。そのためには、建設会社側に、豊富な経験と、知識が求められる。発注者は幾つかの建設会社を選定し、エンジニアと協働して、コストの詳細を突き詰めていく必要である。

その結果、計上されたコストと、リスクは公開され、判断材料となる。しかし、現在のシステムでは、これを実現するのは難しい。だからこそ、一番安く入札し、経済的に成り立っていないような業者を選定する入札制度を、変えるべきなのだ。

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ちなみに、シュツットガルト21計画とは、テンション構造などで非常に有名なフライ・オットーと建築家、インゲンホーフェンが手を組んだ、構造的に非常に美しい計画です。構造と採光の融合、駅の屋根を使った屋上庭園は市民に開放され、パウル・ボナーツ設計の旧駅舎と反対側に位置する公園を結びつけます。様々なものがいくつもの機能を付加され、そこに建築物が立ち上がる。いかにも金のかかりそうなデザインですが、しかし、非常に説得力のある計画でもあります。実現されたら、絶対に見に行きたい建物です。



エルベ・フィルハーモニーも、王冠のようなガラスファサードの上層部とずっしりとした基壇部がエルベの水面からそそり立っている、有無をいわさずかっこいい建築です。このガラスのファサードパネルが気合のはいった造形をしていて、縦横に使用されている曲面ガラスも非常にコストが掛かっていることが一目瞭然です。これも建設終了したら、まだいったことのないハンブルグを訪問がてら絶対に見たい建物です。


今回、このブログでこの記事を取り上げた理由は、これらの計画が、今なぜストップしているのかを明確にするため、そして、より市民に開かれ、そして市民の参加することのできるような計画プロセス確立に向けての動きが芽生えている、と感じたからです。それらは、以前にも、そして近日中にもまた翻訳を再開したい、ミュンヘンの、「持続可能性都市への挑戦」で、また、仙台にて復興に向けて尽力されている南部繁樹氏の記事を拝読させていただいたときにも非常に強く感じました。


ところで、私自身は建築家のはしくれなので、上記の非常に素晴らしい建築がストップして、あまつさえ、完全に中断してしまう可能性があるのは非常に心苦しい。問題は設計にあるのではなく、業者と行政との、やりとりの不透明性のみにあると考えたいが、そういうわけにもいかないだろう。
ところでロンドン・オリンピックでは、月々積算を更新したそうだが、これは大変な作業量になるだろう。私は現在、設計ツールとしてヴェクターワークスを使用しているが、BIM(Building Information Modeling)を取り入れるかどうか、現在携わっている学生寮設計の初期段階で議論となった。もし、この3Dモデリングデータ情報とでもいうべき手法がより身近なものとなれば、ひょっとしたら積算の逐次更新も容易になるかもしれず、そうなることは、設計者にとっても、施主にとっても喜ばしいことだと思う。

一方で、このプロセスが複雑化するようなことになれば、若い建築家が公共建築を設計する機会を、熟練した大事務所に奪われることになりかねない。また、公共建築物の、建設費のみに着目した議論ではなく、共有価値としての、シンボルとしての価値も吟味され、広く議論の対象となるような、そういったシステムを構築していただきたいと思う。



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