2011年9月25日日曜日

アドルフ・ロース

ふぅ。やっと、ここまで辿りついたか。
今回紹介するのは、ウィーン訪問の中でももっとも感銘を受けた建物の内の一つ、アドルフ・ロースの通称ロースハウス、現在はライフアイゼンバンクという銀行が入っている建物、そしてその他ロース建築諸々。

Looshaus
Bauzeit: 1909
Ort: Stadtbezirk 1, Altstadt



ロースハウスはハプスブルク宮殿のミヒャエルトラクト、そしてミヒャエラー教会が隣接する円形のミヒャエラー広場に面している。
最初にこの広場を訪れると本当に感心してしまう。ああ、ロース、本当にやってしまったんだなぁ、と。彼は1908年に発表された”装飾と罪”の中で建築表現に現れる装飾を徹底的にやっつけた。そしてロースハウスを設計した際には、装飾に覆われていない白い漆喰の壁を美しいと表現し、平面で構成される建築を徹底的に肯定した。
装飾と罰からの一節。

"Seht, die zeit ist nahe, die erfuellung wartet unser. Bald werden die strassen der staedte wie weisse mauern glaenzen. Wie zion, die heilige stadt, die hauptstadt des himmels. Dann ist die erfellung da. "
時は来た。白い装飾のない壁の建つ街路は輝きを放つだろう、それはさながら神々の都、ジオンのようだ。装飾をそぎ落とし、創造するその時がきたんだ。

そして、この建物である。周辺に仰々しい飾りをつけた建築群を従えての堂々たるファサード。
しかしその実現も決して平坦なものではなかったらしい。幾たびものメディアの攻撃にさらされたらしいし、施主もそんなにノリノリというわけではなかったらしく、装飾のあるファサードをおのずからスケッチしたりしている。

 

基壇部分はメノウ。装飾がない代わりに高価な材料を使う。

 

エントランス部分とエントランス天井見上げ。

正直、この建物にたどり着く前までは、ウィーン旧市街内部の建物装飾に圧倒され、うーん、やっぱ装飾って、必要なもんだよね、とか考えていた矢先だった。そんな考えになり始めたとたんにこの建物を見て、あ、やばい、と正直、感じた。何故なら、そこに近代までの支配的な建築の考え方、つまりファサードを飾り付ける思考回路に反論を突きつけた建物がどーんとたっていたからだ。それほどまでにこの建物は、近代建築の芽生えを感じさせる。そして、周辺に建つ伝統的建築群との対比を通しても、この建物を通してロースが指し示した近代建築から現代建築への道標も、呆れるくらいにはっきりと読み取ることが出来る。

僕は、前回のザハの集合住宅のブログに、なぜ、そこまでするのか、する必要があるのか、と自分に問いかけた。その回答の一つが、ロースの中に、この建築の中に、ある、と僕は思っている。つまりは、こうだ。

人間というのは、あくなき追求をする生物なのだ。家を建てるときにも、住めればいい、それだけでいい、と考えるに留まらず、余剰、余力がある限り、それを建物につぎ込む。それが過剰になってくると、装飾として具現化し、それが形式化して一つの建築様式を生み出す。近代以前は、バロック、ロココと進んできた建築様式が、ヒストリズムへと移行した。そして、市民階級の台頭とともに、アートアンドクラフト運動を起爆としてユーゲントシュティルが花開く。それを否定して、平面の美しさを宣言したのがロースだった。その後の建築の発展は、コルビジュエやロシア構成主義の成果を見れば一目瞭然だろう。コルビジュエは幾何学を礼賛し多くの建築をデザインしたが、その中には揺らぎ、つまりそれは彼の美学なのだけれども、を読み取ることが出来る。つまり、幾何学のみでは捕らえられない、住むという行為、そしてその集積である都市が立ち現れる。また、ロシア構成主義、デ・シュティル等は、構成の美学を追及し、幾何学の生み出す風景、ランドスケープを作り出す可能性を示した。そして、そのランドスケープは一つの建物を単位とするのではなく、一つの建物をより細分化し、その中にランドスケープを生み出そうとする。そのランドスケープが、かつての装飾に取って代わったといえるのではないだろうか。
つまり、ロースは装飾を否定し、平面そのものに美学を見出し、平面を作り出す素材そのものにこだわったが、現代建築はその平面を細分化し、平面の相互関係によって建築を作り出す。それってデコンストラクション、そのものじゃないか。ヨーロッパ、ってまだその延長線上に生きていないか???いや、それでいい。というよりも、今はそういったことがしてみたい。平面の相互関係について、追求してみたい。デコンやりたい、って意味じゃなく、相互関係を利用して面白いこと、できないかなぁ。



ロースは、決してヒストリズムを否定したわけではない。彼の建築は非常にモニュメンタリスティックで古典的に見える。



ロースの都市建築。入り口建築。シンメトリー。黒い石。曲面ガラス。そう、ガラスが結晶のように扱われている。ロースハウスの内部の陳列棚は、本当にクリスタルのよう。残念ながら内部撮影は禁止だった。



ロース設計の住宅群。誰が、近代建築の巨匠が設計したものだと、外観から判断できよう?



この階段ハウスも内部からみることはできない。




こんなの、普通の住宅じゃん、外から見たら。相当改装されているらしい。



こちらも、改装物件。外観だけじゃ本当になんともいえない。歩き回って疲労困憊。



最後に、クレンプナー通りにあるアメリカンバー。内部撮影禁止。内部は天井にメノウのはめ込まれた格子天井、壁上部は鏡張りで無限空間。これも、ロースお気に入りの表現らしく、ロースハウスでも計画されていた。

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